FAOによる国際キヌア年取り組み最新まとめ

国際農林業協働協会という公益社団法人の発刊物「世界の農林水産」2013年秋号にキヌアについての記事が掲載されていました。FAO日本事務所の広報官の方による、日本における国際キヌア年への取り組みについてのレポートです。

許可を頂いたので該当箇所を全文転載します。

FAOによる国際キヌア年取り組み最新まとめ

「国際キヌア年2013」の取り組み

「国際キヌア年」の今年は、日本でもキヌアに関するさまざまな取り組みが行われている。2月に行われたシンポジウムを中心に、その概要を紹介する。

FAOによる国際キヌア年取り組み最新まとめ2

「国際キヌア年」の背景

今年2013年は国連が定めた「国際キヌア年」である。「数千年前に種蒔かれた未来」と題されたこの国際キヌア年は、アンデス地方で数千年前から食されてきた穀物キヌアが食料危機の重要な解決手段になり得るとして、ボリビア大統領によって提唱された。

その提案に、アルゼンチン、オーストラリア、アゼルバイジャン、ブラジル、キューバ、エクアドル、エルサルバドル、グルジア、ホンジュラス、イラン、リベリア、メキシコ、ニカラグア、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラなどの国々が賛同した。

この提案は、2011年6月のFAOの総会にて支持され、2011年12月に国連総会において正式に承認された。国連総会では、キヌアが並外れた栄養価と多様な農業生態環境への適応能力を持ち、飢餓や栄養失調撲滅への可能性を秘めた偉大な穀物であることが注目され、その関連行事の推進に努める役割をFAOに任命した。

また、ボリビア大統領とペルー大統領夫人は、彼らのキヌア普及における貢献が広く認められ、特別式典にて国際キヌア年特別親善大使に任命された。

キヌアの持つ可能性

キヌアは一年草で、アンデス地域原産の穀物である。マイナス8℃から38℃の気温変化に耐え、湿度には40%から88%まで順応することが可能である。

また、海面ゼロ地帯から標高4,000mに至る標高でも育つことができ、干ばつや高塩分濃度にも強く、痩せた土壌などさまざまな生態学的環境や気候に適応できる。

このように、気候変動に対する高い適応能力を有しているキヌアは、世界各地で農業に可能性があることを示している。キヌアの穂の色は、品種によって黄・赤・白・紫などさまざまな色を呈し、一穂に大量に実をつけるために収穫量が多いのが特徴である。

必須アミノ酸を網羅するキヌアは、他の穀物に比べて各種栄養成分をバランス良く含んでおり、人間や動物に必須なタンパク質、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミン、リノレン酸、消化酵素のアミラーゼを多く含む一方で、グルテンを含まないため小麦アレルギーの人でも摂取することができるという。

現在すでに6ヵ国で生産されており、70ヵ国以上で商業用生産を行うための農業試験が行われている。このキヌアという穀物は、我々の食卓には頻繁に登場することがなく、あまり馴染みのない穀物かもしれないが、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、この穀物のみが持つ卓越したタンパク質およびアミノ酸のバランスや、完全にアレルギーフリーであることに注目し、宇宙に長期滞在せざるを得ない飛行士のための理想的な食料であると判断し、早くから宇宙食のメニューにキヌアを取り入れてきた。

国際キヌア年とは、その生物多様性と豊富な栄養価が食料安全保障と飢餓撲滅に果たす役割に世界の注目を集めるためのプラットフォームである。

日本における取り組み

国際キヌア年は、2013年2月、ニューヨークの国連本部において、ボリビアのエボ・モラレス大統領の「キヌアはアンデスの人々が7,000年もの昔から先祖代々培ってきた大切な贈り物だ」という開会宣言により開幕した。

ボリビア政府は、国際キヌア展の世界各地での普及に着手し、第3回目の開催地をアジア最大都市である日本の東京で開催すると決定した。FAO日本事務所は早くから連携を開始し、キヌアが持続可能な食料・栄養の安全保障実現のために果たす役割とその効果について幅広い理解を得る機会を提供するため、ボリビア外務省と(一社)在日ボリビア商工会議所との共催で、「FAO国際キヌア年エキスポ2013『数千年前に種蒔かれた未来』」と題したイベントを、5月9日から12日まで、東京青山にある国連大学本部ビル(UNハウス)にて開催した。

5月9日にUNハウスのエリザベスローズ・ホールで開催された国際シンポジウム『科学セミナー』では、伊藤正人FAO日本事務所長の開会挨拶に続き、ボリビアのアチャコリョ農業大臣による基調講演が行われた。

講演では、自然植物で非常に高い栄養価を持つキヌアは、アンデスの原住民が自然と調和して生きるために先人から伝承され活用してきた食べ物であり、その栄養価と栽培可能性から、ミレニアム開発目標(MDGs)達成にも大きく貢献する可能性を大きく秘めているとのメッセージが伝えられた。続いて、ボリビアのキヌア研究家ホセ・ベリド氏より本国でのキヌア栽培事例が紹介され、世界で66種の存在が確認されているキヌアが、日本を含む多様な地域で栽培できる可能性が高いことが紹介された。

後半のパネルディスカッションは、国連大学シニア・リサーチフェロー伊藤治氏によるモデレーションのもと、小西洋太郎教授(大阪市立大学)による「日本におけるキヌアの可能性」と題したプレゼンテーションで始まった。

キヌア種子の詳しい構造の解説や、キヌアと主要穀物の栄養素を比較した研究結果が紹介されたほか、5種類の食餌接種によるラットの成長実験を行なった結果、国産キヌアでは生と加熱で体重の増加が大きく異なる一方で、ボリビア産にはそのような違いは見られなかったという研究結果が発表された。

また、日本国内におけるキヌア栽培の新規需要の掘り起こしや、地域開発への貢献などの効果が挙げられた。続いて磯辺勝孝准教授(日本大学生物資源科学部)より、「我が国におけるキノアの栽培」と題するプレゼンテーションが行われ、代表的なキヌアの品種(ValleyType、AltiplanoType、Sea-levelType)が紹介されたほか、播種期によって収量が異なるため日本での播種に当たっては品種に応じた時期の調整が必要で、今後日本でキヌアの種子の品質改善・安定化を促進して生産を根づかせるには、収穫とポストハーベストのハンドリングに機械化が不可欠であることが強調された。

また、キヌアは予想以上に害虫の発生を誘発するため、これに対処する農薬が必要であることが伝えられた。最後に、京都府立桂高等学校キヌア研究班の山城こころさんによるプレゼンテーションが行われ、同校がキヌアの品種や性質について研究を開始し、栽培実験に取り組んできた経緯が紹介された。

日本におけるキヌア栽培の難点として、日本の気候にあった種子を手に入れることが困難であることが報告されたほか、秋に播種することで害虫の発生頻度が抑えられ、農薬や除草剤の使用を控えることができることが提案された。

質疑応答セッションでは、ボリビアでのみ生産されているQuinuaReal(ロイヤル・キヌア)について、「日本での栽培の可能性はあるのか」という質問があり、磯辺准教授が「QuinuaRealは暑さに弱い一面があるが、これは秋蒔きにするなど調整すれば日本でも栽培が可能である」と回答した。

また、「キヌアの普及に当たって、伝統的に栽培していない国や地域に展開していく際、何らかの規則はあるのか(特に生物多様性への配慮の視点から)」という質問に対して、磯辺准教授は、「アルゼンチンのブエノスアイレス大学から研究用に提供を受けた種子十数種類を使っているが、今後商業用として展開するには確認が必要である。この点は農林水産省に指導を仰ぐ方がよい」とし、ホセ氏は、「国によって規制は異なるため、柔軟な制度が整っているかどうかが重要である」と強調した。

モデレータの伊藤氏は、「通常は、物質移動合意書(MaterialTransferAgree-rment)など栽培目的などを記した契約書を交わす必要があるのではないか」と付言した。

最後に、伊藤氏のモデレートにより、セミナーで議論された種子の入手方法、栽培管理に必要な投入材(農薬・除草剤)、労働力の削減、マーケットの創出・拡大、種子品質の改善などの課題を踏まえたうえで、キヌア普及に関するハードルに関するディスカッションが行われた。

磯辺氏によると、農家への種子提供は、非商業目的に限られているのが現状であるため、日本向けの品種を開発して農林水産省に登録する必要があるのではと提案した。山城さんは、キヌアの栽培において、アオクサカメムシをはじめとする数種類の害虫被害にあった経験があるが、日本で登録されている農薬はカメノコハムシにのみ有効であるため、より広範囲に適用できる農薬の登録を希望すると主張した。

小西教授は、キヌアがアマランサスのように一時的なブームになることは期待していないとし、日本にはすでにさまざまな食品が溢れているが、持続的な普及を期待したいと述べた。会場には国際協力関係機関、大学等研究機関、民間企業、NGO、在京大使館、メディア、学生(主に、京都府立桂高等学校)など、幅広い層から75名の参加者が来場した。

本エキスポでは、科学セミナーと平行して、5月12日までUNハウスのレセプション・ホールにてキヌアに関する展示会を実施し、キヌアの品種や栽培方法を解説するなどの各種パネルの展示やパンフレット資料を提供した。

この展示会場のセッティングは、現地ボリビアから来日したデザイナーによる本格的な演出によるもので、ボリビア原産リャマ毛100%で作られた色彩豊かな巨大なカーペットが敷き詰められ、会場に入場した途端に明るく華やかな雰囲気に包まれる。

部屋の中心に置かれたのは、幅1m、長さ4mはある巨大な「トトラ」というボリビア伝統民芸品の船で、中を覗くと何万粒ものキヌアが敷き詰められていた。来場者に実際のキヌアの粒を自由に手にすることができるようにしたもので、小さいサイズながらも大きな可能性を秘める穀物に直接触れることができ、皆楽しんでいたようだった。

学生や一般を始め、メディア、国際協力関係機関、研究機関等など幅広い層の参加者が来場した。キヌアの栽培はこれまで、ボリビア、ペルー、アルゼンチン、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルーで伝統的に行われてきたが、新たにチェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、米国が栽培国として台頭している。

キヌアは、貧困が原因で不可欠な基礎栄養素を十分に摂取できない(主に開発途上国で生活する)人々を、栄養失調から脱却させる助けとなる可能性を秘めている。この国際キヌア年を基盤として、この小さな穀物の有する可能性が再認識され、飢餓や栄養失調の撲滅に大きく貢献して行ってくれることを願ってやまない。

FAOによる国際キヌア年取り組み最新まとめ3

以上です。

国際キヌア年においてFAOがどんなサポートしているかから、キヌアの最新事情までよく分かる盛りだくさんの内容でしたね。単なる健康食品としてだけでなく、飢餓対策などの役割も併せ持つキヌア、世界的なバックアップを受けて今後ますますの普及が期待されます。

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・参考:『世界の農林水産』2013年夏号(通巻832号) – JAICAF

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