キヌアはボリビアやペルーが原産地

ボリビアのウユニ湖周辺では有機栽培も。キヌアは豊富なレシピとともに、有機栽培などが行われているのも魅力の食材。

海外の現地での栽培

ボリビアでのキヌア栽培

ボリビアにおいては、Oruro県のウユニ塩湖を囲むように塩湖北部のLadislao Cabrera、塩湖南部のNol Lipez、塩湖西部のDaniel Camposなどで行われている。この地区では60-70haの有機栽培を行っている農家もあり、輸出業者との契約栽培をおこない収益を高めている。その他の地区では自家消費用が主で生産性も低く、自家採取の種子で品種の均一性がなく、生産性が悪い。

播種期は8月から10月と長く、その時々の土壌の湿度によって行われ、まとまった雨があれば一斉に播種される。11月末までに播種しないと、4月初めからの霜で収量が低下する。約60cmおきに棒で穴を掘り(直径約10cm)、20-30粒を播種し覆土するのが一般的な方法。年間300-400mmの降雨で乾燥状態が続き、病虫・雑草の発生を抑えているため、農作業行程は他の作物より単純であるが、収量平均が600-700kg/haと少ない。

ペルーでのキヌア栽培

ペルー領チチカカ湖畔のランパグランデ村とビルケ村でキヌアに関する実態調査を行った。その特徴は共同耕地での輪作であった。キヌアの播種は、雨季の始まりの9月末から10月末にかけておこなわれる。キヌア栽培の前年には輪作によりジャガイモが栽培されていたため、播種床の準備は、休閑していた場所に比べると簡単である。雨が降り、土壌が柔らかくなるのを待ってから耕起を始める。ユンタという犂を2頭のウシに引かせ耕していく。播種は、犂でできた畝に沿うようにおこなわれるが、畝の中央に播くというよりは、散播に近い播きかたをする。

各農家は、前年に自家採取した種子を翌年の播種に利用している。共同耕地を利用する農家は、各世帯が多数の品種を植えるため、キヌア耕地全体としては数多くの品種が栽培されることになる。これには、多様性を維持するとともに自然災害からの危険分散という利点がある。ランバグランデ村のキヌア耕地では、異品種を同一の畑で栽培している。

播種した種子に、覆土はしない。播種後の雨や風により種子は土壌の間隙に入り込んでいくからである。雨が一度降ると、それから5,6日後には発芽してくる。これまでのキヌアに関する文献では、生育期間は140-210日とされているが、播種後すぐに十分な降雨があった場合には、この生育期間は短縮されるようである。

一方ウユニ地方では、チチカカ湖畔に比べ乾燥しているため、異なる播種法をもちいている。タキサという農具を使い、穴を10センチメートルから深いときには20センチメートル近くまで湿り気が出るまで掘り下げ、そこに播種する。覆土も十分におこない、発芽のための水分をできるだけ効率的に使うようにする。キヌアの若い葉は、種子に比べ少量のサポニンしか含んでいないため、摘んで野菜のように利用され、また鳥害をうけることもある。

観察によると、キヌアは本葉が8枚出ると分枝がはじまり、12枚出ると花芽が見え始める。この頃までのキヌアの形態は、日本の耕地雑草であるアカザと非常に似通っている。その後、草丈が数10センチメートルから2メートル近くまで生育し、分枝の長さ、葉と茎の色、花序の形などで大きな多様性がみられるようになる。これらの違いによって農民はキヌアを分類し、品種名を与えている。写真はキヌアの脱穀作業。

キヌアの脱穀

ところで、アルティプラノの農業では低温と霰が作物を栽培するうえでの制限要因となっている。気温が0度近くまで急激に低下したり、霰が降り始めたりすると、キヌアは葉をより垂直に立て、被害を回避するように反応する。やがて気温が上がり始めると、一度は萎えかかった植物体も時間とともに回復し、枯れることはなかった。プーノ市周辺での観察によれば、霜が降りジャガイモが枯れても、キヌアの葉は緑色に保たれていた。

3月下旬になると、雨季も終わりを迎える。この頃になると花序の乾き具合を見て収穫作業に入る。収穫は、手で引き抜く方法が伝統的であったが、最近では収穫物に土が混入すると価格が下がるため鎌で刈り取る方法が増えてきている。
収穫されたキヌアが湿っている場合は数日間耕地内に積み上げ、天日で乾燥させる。乾燥した後、敷布やシートの上に穂をそろえるように並べ、ジャカニャやワタナと呼ばれる棒で2人1組となり、リズム良く交互に叩きながら脱穀していく。