これだけ網羅的にまとまっている、キヌア栽培に関する論文は他に見たことがありません。
キヌアについて2007年より情報収集を続けてきて、日本語でここまでの蓄積がなされたことが大変嬉しいです。諸研究者に敬服、感謝いたします。既知の知見を織り交ぜつつ、抜粋紹介します。
まずは品種から
「栽培用のキヌア種子を入手するのは難しい」で紹介したとおり、日本国内で、栽培用のキヌア種子を入手するのは容易ではありません。そんななかでもネット通販を使った方法は「日本での栽培に合うかもしれないキヌア種子6つ」で紹介しました。
品種選びの予備知識で備えておきたいのは、「意外と知られていないキヌアの様々な品種たち」で紹介した、Altiplano・Valley・Salar・Sea levelの4タイプがキヌア種子にはあることです。Altiplanoが最も高地で、Sea levelが最も低地です。
わが国で栽培する場合、温暖な気候に適するSea levelタイプの品種が栽培しやすく、多収が見込める。Sea levelタイプのなかにはヨーロッパで作出された品種が含まれており、こうした品種は、比較的均一な集団となっている。しかも、アンデス地方の在来品種と比べ、安定的に多収を得やすい優良品種が多い。たとえばデンマークで育成された品種である‘NL-6’は、草丈が1m程度と短幹であり、分枝が少ない主茎型の品種である。この品種は密植にすることで高い収量性を示し、Sea levelタイプとしては子実も大きいことから、わが国での栽培において主力品種となることが期待される。
このNL-6は、諸事情により、自由に配布できないものでもあることに留意しておきたいです。その他含めたSea level品種は、他のタイプに比べて、日本への適応性は高いと言えるでしょう。
いつ作るか
キヌアは播種からだいたい3ヶ月ほどで収穫を迎える作物です。霜があってはいけませんが、3月〜8月までの間は播種に適しているそうです。
そして、日長条件が重要です。詳細はぜひ論文を参照してください。
品種タイプごとに関東地方でのキノアの播種適期を考えると、Sea levelタイプの品種は3〜4月頃、ValleyタイプやAltiplanoタイプの品種は7月頃になる。
Valley・Altiplanoタイプは、日が短くなっていく短日条件に合っています。Sea levelタイプは日長条件と無関係で、成長を促進する高温下にあるほうが良く育ちます。Sea levelタイプを夏に播種しても発芽はしますが春播きより成長が抑えられるということです。
肥料と密度は?
キヌアはほとんど肥料を必要としないようです。肥料過多で生育が良くなりすぎ、倒伏してしまうようでは元も子もありません。もしするなら、
‘NL-6’などの多くの品種では、窒素、リン酸、カリウムをそれぞれ5g/m2程度、播種前に全層施肥することで増収が見込める。
という記述を参考にしてください。
また栽植密度は、NL-6の場合、200個体/m2程度で多収となるそうです。
土壌水分
キヌアは原産地の環境からか乾燥に強いと言われており、一方で地下水位上昇による収量の低下が著しいそうです。
日本でキヌアを栽培する場合には土壌の「透水性の改善」が重要であるとも述べられています。
まとめ
「わが国における栽培状況」と題して論文のまとめが展開されています。日本各地で国産キヌアへの挑戦が始まったことに触れつつ、Sea levelタイプの適合性についても述べられています。
「絶対に考慮しなければならないこと」と強調しているのは下記のことです。
タイプと栽培地の温度と日長
どのタイプを使い、どんな温度で育てどの季節を選ぶのか。これらの組み合わせが、キヌアの生育には重要な要素であるということです。結びでは下記のように述べられています。
Sea levelタイプのキヌアで多くの子実収量を得るには、温暖な気候条件の地域で栽培するか、開花・成熟期が温暖な条件になるように栽培するとよいと考えられる。
論文の紹介は以上です。
日本では、春播きにSea level、夏蒔きにValleyタイプをそれぞれ検討してみると良いかもしれません。もちろんそれらの種子を入手することは容易ではありませんが、もしできたなら、その種子の特性をおさえ、温度や日長との関わりを把握し、土壌の透水性に留意しながら栽培を進めていく必要がありそうです。
重ねて、諸研究者には感謝申し上げます。