国際キヌア年エキスポ2013で話された大事なこと

先日私が遅刻してしまった国際キヌア年エキスポ2013の報告書がFAOサイトに上がっていました。非常に示唆に富む内容が伺え、なんで遅刻してしまったのだろうととても悔やまれます。以下、報告書の抜粋と共にキヌアの将来性や課題についてまとめていきます。

国際キヌア年エキスポ2013

キヌア展の概要

全体の概要は以下の通りです。

  • 主催:ボリビア多民族国外務省、(一社)在日ボリビア商工会議所、国連食糧農業機関(FAO)日本事務所
  • 後援:外務省、農林水産省
  • 日時:2013年5月9~12日
  • 場所:UNU国連大学本部 東京
  • スケジュール:司会 福盛在日ボリビア商工会議所会頭、ダビデ・チョケワンカ氏(ボリビア多民族国外務大臣)開会挨拶、ネメシア・アチャコリョ氏(ボリビア多民族国農業大臣)挨拶、来賓挨拶 外務省 若林政務官、乾杯 福盛在日ボリビア商工会議所会頭、ボリビア国ダンス披露、キヌア料理提供 ボリビア産キヌア試食会

会の内容は以下の通りです。

  • 開会挨拶 伊藤正人(FAO日本事務所代表)
  • 基調講演:ネメシア・アチャコリョ氏(ボリビア多民族国農業大臣)『キヌアの現状とそれを取り巻く環境』
  • 事例紹介:ホセ・ベリド氏(ボリビア多民族国キヌア研究家)『キヌア栽培の持続可能な拡大』

パネルディスカッションの参加者は以下の通りです。

  • モデレータ:伊藤治氏(国連大学本部東京シニア・リサーチフェロー)
  • パネリスト:ホセ・ベリド氏(ボリビア多民族国キヌア研究家)
  • 小西洋太郎氏(大阪市立大学教授)
  • 磯部勝孝氏(日本大学生物資源学部准教授)
  • 京都府立桂高等学校キヌア研究班 生徒代表

国際キヌア年エキスポ2013

科学セミナー概要

ボリビア多民族国アチャコリョ農業大臣の基調講演。

<キヌアは自然植物で非常に栄養価が高く、アンデスの原住民が自然と調和して生きるために活用してきた先人から伝承された食べ物であり、その栄養価と栽培可能性から、MDGs達成にも大きく貢献する余地がある。>

ふむふむ、基本事項ですな。続いて、小西洋太郎教授(大阪市立大学)による「日本におけるキヌアの可能性」と題したプレゼンテーション。

<キヌアと主要穀物の栄養素を比較、キヌア種子の構造、5 種類の食餌接種によるラットの成長実験を行なった結果に国産キヌアによる体重増加は生と加熱で大きく異なる一方、ボリビア産にはそのような違いは見られなかったなどの研究結果が発表され、日本国内におけるキヌア栽培の新規需要の掘り起こしや地域開発への貢献などの効果が挙げられた。>

続く磯辺勝孝准教授(日本大学生物資源科学部)による「我が国におけるキノアの栽培」の可能性に関するプレゼンテーション。

<代表的なキヌア品種としてValley Type、Altiplano Type、Sea-level Typeがあるとし、それらには播種期による収量の違いがあって、日本で播種するには品種によって時期を調整しなければならないこと、また、今後日本でキヌアの種子の品質改善・安定化を促進し生産の根付かせるには、収穫とポストハーベストのハンドリングに必要な機械化が不可欠であること、そしてキヌアは予想以上に害虫の発生を誘発するためこれを対処する農薬が必要であることが伝えた。>

続いて、京都府立桂高等学校キヌア研究班の山城こころさん。

<同校がキヌアの品種や性質について研究を開始・栽培実験に取り組んできた経緯を紹介し、日本におけるキヌア栽培の難点を挙げ、日本の気候にあった種子を手に入れることが困難であること、また、秋に播種することで害虫の発生頻度を抑えられるため結果農薬や除草剤の使用を控えることができることが提案された。>

質疑応答セッション

<ボリビアでのみ生産されている Quinua Real(ロイヤル・キヌア)は日本で栽培の可能性はあるかという問いでは、磯辺教授により、RealQuinua は暑さに弱い一面があるが、これは秋蒔きにするなど調整することにより、日本でも栽培できる可能性はあると回答。>

Quinua Realは栄養価も高く人気のある種ですから日本でも栽培できるようになると嬉しい話です。

<キヌアの普及において伝統的に栽培していない国や地域での展開に何らかの規則はあるのか(特に生物多様性への配慮の視点から)という質問に対しては、磯辺教授からは、アルゼンチンのブエノスアイレス大学から研究用に提供を受けた種子十数種類を使っている。今後商業用として展開するには確認が必要かもしれず、これに関しては農水省に指導を仰ぐ方が良いと推奨され、ホセからは、国によって規制は異なり要は柔軟な制度が整っているかどうかであると述べられ、モデレータの伊藤氏によって、通常は Material Transfer Agreement で栽培目的などを記した契約書を交わす必要があると付言された。>

現地産の種子をそのまま国内で栽培して商用に使ってよいかという問題に対して、何らかの公的手続きが必要とのこと。

<磯辺氏によると、農家への種子提供は商業目的につながらないものしかできないのが現状。日本向けの品種を開発して農水省に登録する必要があるとした。山城さんは、アオクサカメムシを始めとする数種類の被害にあった経験があるので、日本で登録されている農薬が対象としているのはカメノコハムシに対してのみ有効なため、より広範囲に適用可能な農薬の登録を希望すると述べた。>

日本向けの品種を開発して農水省に登録する必要があるとは、随分難しい話のように聞こえます。また日本でキヌア栽培をする際に気をつけなければならないことのひとつ「害虫」問題についても触れられています。以前山梨で専門家に伺った農薬認可問題と合致しています。

<小西氏は、キヌアがアマランサスのようにあまり(一時的な)ブームになっては欲しくないとし、日本には既に様々な食品が溢れている中で、キヌアだけが広がるとは想像しにくいと述べた。>

一時的なブームになってほしくないのは同意です。キヌアだけが広がるとは想像しにくい点についても分かります。キヌア単品でなく、雑穀など他の自然食品を含めた「健全なライフスタイル」を押し進めるなかでのいちアイテム、という認識のほうがスマートかもしれませんね。私見です。

キヌアわっしょい!では無かった

少し意外でしたね。ディスカッションではリアルな課題の指摘が小気味よくなされていたようです。あぁ参加したかった!生産国消費問題は報告書に記載がありませんでしたが、上記から主に、「日本での栽培の課題」「認知度拡大への疑問」が話題にのぼったと言えそうです。

キヌアは「仙豆」ではなく、それだけ食べれば良いというものでもありません。ライフスタイル提案に向けたひとつのツールでしかありません。そこをはき違えると頓挫するな、と気を引き締められる資料でした。「意外と真面目!キヌア完全まとめが目指すもの」もチェックしてみてくださいね。

国際キヌア年エキスポ2013

※ 参考:FAO国際キヌア年エキスポ 2013『数千年前に種蒔かれた未来』結果概要(PDF)

※ 写真:2013年、キヌア展オープニングパーティー | CCIBJ 在日ボリビア商工会議所